備中神楽を取り入れた芸風は偶然の産物

僕は「東京ホテイソン」というお笑いコンビを組んでいる。主に漫才を得意とするコンビで、相方のショーゴのボケに僕が備中神楽の囃子ことばのような口調でツッコミをする芸風が特徴だ。
ツッコミに取り入れている備中神楽は、僕の地元である岡山県西部の備中地方に伝わる伝統文化だ。この独特な芸風がヒットし、僕らの名が世間に知られるようになった。実にありがたいことである。
結成当初からこのお笑いスタイルだったわけではない。コンビを組んでから1年ほどは「なんでだよ!」「何やってるんだよ!」とツッコミをする、正統派の漫才をやっていた。しかし、当時はM-1を2回戦で敗退するほどの、微妙な成績だった。
二人とも「今のスタイルのまま続けていても、上手くいかないかもな」と考えていた頃だった。さらに追い討ちをかけるように、いつも披露していたネタでさえ上手く噛み合わない事態に陥ってしまったのだ。
何回もやっていたネタなのに、何回も合わせてるネタなのに。ネタ合わせでさえ失敗した。感覚的な話ではあるが、いつもやっているテンポや間がどうしてもズレるようになってしまった。
「こんな漫才を舞台で披露するわけにはいかない」と思った僕らは、それまで遊びでやっていたショーゴのボケに僕がでかい声で返す、という流れを急遽取り入れることにした。結果的にそれが舞台でウケて、今の僕らのお笑いスタイルに繋がることになった。
このお笑いはいろんな偶然が積み重なって生まれたものだが、僕らがきっかけで備中神楽を知ってくださる人が増えたのは、とても嬉しいことだ。
さらに昨年、7年に一度だけ行われる「式年祭」に東京ホテイソンとして参加したときには、僕が大学生の頃にもお祭りに参加していたことを地元の方が覚えてくれていて、舞台上で挨拶までさせていただいた。こうして地元の方にも温かく見守っていただけるのは嬉しい限りである。
岡山で過ごした幼少期の思い出

僕は大学生で上京するまで、岡山県の中西部に位置する高梁市で過ごしていた。観光地として有名な倉敷からは、車で1時間程度のところにある。
子どものころから誰とでも仲良くできるタイプだったため、外でアクティブに遊ぶ子たちのグループにも属していたし、ゲームが好きな子たちとスマブラで対戦することもよくあった。
小中学生の頃の僕らの遊ぶ場所と言えば「なりわ運動公園」だった。グラウンドでキャッチボールをしたり、人数が少ないながらも野球をしたり。あとは、文房具店「柳井芳文堂」で売っている駄菓子もよく食べていた。

お笑いにも取り入れている備中神楽は、実際に僕自身も携わっていた。兄が備中神楽育成会に入っていたので、僕もつられるような形で2歳頃から入会。小学校の同級生が40〜50人いたら、育成会に入っているのは5人いれば良い方だった。中学生になって部活動が始まるとさらに人数が減ってしまうのだが、そんな中でも僕は大学の途中まで参加していた。
備中神楽育成会に入ってたり、実家が車屋を営んでいたりしたので、町にいる人とはみんな顔見知りのような状態だった。
地元を思い返すと食べたくなる、岡山グルメの数々

岡山に住んでいた頃は、家族でよくラーメン屋に行っていた。中でも特に足を運んでいたお店は笹岡市にある「とんぺい」。鶏がら白湯スープが特徴で、僕はよくネギラーメンを食べていた。僕の家からは車で1時間くらいかかるのだが、時間をかけてでも行く価値があるほど美味しかった。ちなみに、千鳥のお二人もよく学生時代に行っていたらしい。
受験合格や誕生日などのお祝い事のときは、倉敷にある「漁火大名」に連れてってもらっていた。店内にいけすがあって、活きの良い魚が食べられる。僕は生きたイカをそのまま刺身にしてもらうのが好きだった。
運動会のあとなど、誕生日ほどではない軽いお祝いごとのときは、近所の焼肉屋「モランボン」に行く。肉全般が美味しいのはもちろんだが、ここで食べる抹茶アイスがすごく好きだった覚えがある。
岡山でよく食べていたもので言うと、松川食品株式会社の焼き鳥もある。どこのスーパーにも置いてあるので、高梁市近辺の人にはかなり馴染みのある食べ物だと思う。ばあちゃん家の冷蔵庫にはいつも入っていた。
焼き鳥と聞くと、ほとんどの人はももを想像すると思うが、松山食品の焼き鳥は皮がメインなのだ。そのため、僕は長い間焼き鳥といえば「鳥の皮を食べるもの」だと思っていた。上京後、居酒屋に行くようになってから「焼き鳥は皮がメインじゃないし、いろんな種類があるんだ」と知ったときには衝撃を受けた。
岡山のソウルフードはまだある。「シガーフライ」だ。アスパラガスビスケットのようなお菓子で、岡山県民に聞けば絶対に「おばあちゃん家にあった」と口を揃えて言うと思う。棒状のビスケット自体は甘みがあるのだが、周りに塩が振ってあることで甘じょっぱい味になっている、食べ始めたら止まらないタイプのお菓子だ。子どもの頃からずっと食べていた思い出の味。
もし、岡山で手土産を買っていくならば、「大手まんぢゅう」がおすすめだ。薄皮であんこがぎっしり入っていて美味しい。岡山の人たちの手土産といえば、大手まんぢゅうを持っていく人も多いのではないだろうか。
もしくは「山珍の豚まん」も良いだろう。駅の構内などによく売っているのだが、オンライン販売だと約1年待ちという大人気商品だ。長時間の保存ができないのですぐ渡せる場合のみに限ってしまうのだが、これも小さい頃からよく食べていた大好きな食べ物だ。
相方・ショーゴも気に入る岡山の魅力

岡山から上京した後、僕は方言の伝わらなさに驚いた。例えば、岡山弁で「はよーしねー」という言葉がある。「早くしなさい」という意味なのだが、他県民の人が初めて聞いたら「早く死ねってこと?」と勘違いされてしまうことも珍しくない。
あとは、「うったて」が方言であることを最近知った。習字の書き始めの部分を指す言葉で、「うったてをちゃんとしてください」のように使われる。他の地域では同じような言葉がないと知り、驚きを隠せなかった。
県民性でいうと、岡山は控えめな人が多いイメージがある。僕をはじめ、見取り図のリリーさんやハナコの秋山さん、ウエストランドの井口さんといった前に出るようなタイプの岡山県民もいるが、全体的な傾向としては大人しめだ。
あと岡山にはツッコミ文化がなく、誰かがボケたときはツッコミをせずに笑って終わることが多い。そんな地から芸人が多く出ているのはすごいことだと思う。
今では仕事で何度も岡山に足を運んでいるおかげで、東京生まれのショーゴも岡山のことをかなり気に入ってくれている。牡蠣、鰆、桃といったあらゆる美味しい食べ物があるし、「なんといっても岡山駅からすぐのところにゴールドジムがあるのが良い」と言っていた。
最近は岡山に行った際によく「おーいし堂」に立ち寄っている。大判焼きやソフトクリームを売っている和菓子屋さんで、学生時代によく部活終わりに行っていたお店だ。2年前くらいにロケで行かせてもらってから、再び足を運ぶようになっている。
ぜひ一度岡山に立ち寄ってみてほしい

先日、ウエストランドの井口さんと「マスカットスタジアムにいろんなジャンルの岡山出身の著名人を呼んで、フェスができたらいいよね」という話をした。実は音楽業界ならB'zの稲葉さんや藤井風さん、スポーツ選手ならフィギュアスケートの髙橋大輔選手やオリックスの山本由伸選手など、さまざまな岡山出身の著名人がいる。この人らを招いたら絶対に面白いことができるはずだ。
他の岡山にまつわる野望と言えば、備中神楽を盛り上げること。僕らのお笑いで知名度は少なからず上がったかもしれないが、実際にはコロナによるお祭りの中止や氏子が減っている影響で、ちょっとずつ下火になってしまっているのが現状だ。もっと備中神楽にまつわる発信もすることで、伝統文化を守ることに貢献できたらと思う。
最後になるが、この文章を読んで少しでも岡山に興味が湧いたらぜひ足を運んでみてほしい。岡山には日本三名園のひとつである「岡山後楽園」があるし、「大原美術館」では本物のモネの作品も見られる。他県に行く際の経由地にされることが多い岡山だが、ぜひ一度改札を出てみてはいかがだろうか。
著者:たける(東京ホテイソン)
1995年生まれ。岡山県高梁市出身。2歳から備中神楽を始める。M-1グランプリ2020ファイナリスト。2019年より岡山県高梁市の大使「備中高梁伝えたいし!」としても活動している。2024年3月から東京ホテイソン第3回単独公演「銀鼠」全国ツアー開催予定。詳しくはグレープカンパニーHPまで。
X(旧Twitter):@takeyanbka
制作:ピース株式会社 構成:伊藤美咲
